『ロング・グッドバイ』の魅力
自分が好きな小説に『ロング・グッドバイ』があります。
作者はアメリカの作家でレイモンド・チャンドラー。
そこで今回は好きな小説紹介ということでブログを書いてみようと思います。
レイモンド・チャンドラーの作品はマニアックかもしれませんが
翻訳家の翻訳によってこの作品の魅力は変わってきます。
村上春樹と清水俊二の翻訳が比較的手に入れやすいと思います。
この小説の主人公はフィリップ・マーロウという私立探偵。
物語は友人が妻殺しの容疑をかけられてマーロウがとばっちりを喰らうところからはじまる。
しかし、数日後、友人が自殺して事件が解決。
腑に落ちないまま、別の依頼をうけたマーロウは、
盗まれた大金を探すギャング、怪しげな精神科医、巨漢のアル中流行作家、
そして、都会の夜をさまよう美しい人妻といった人々と接するうちにあることに気づき始める…。
ネタバレしても面白くないのであらすじはこの辺で…
この小説の何が面白いのかといえば、マーロウが事件を解決する途中で
「事件とは関係ないんじゃないの?」というような寄り道をたくさんするんです。
この寄り道が面白いんです。
独特な文体から繰り出される事件とはあまり関係ないんじゃないのエピソードが
チャンドラーの描く独特な世界に読者を引きずり込むのです。
チャンドラーの独特な文体と列車に乗り車窓から流れる風景をただ眺めているような感覚は
合わない人にはただ退屈な作品と感じる人もいるのは確かです。
自分にとってはこの退屈な感覚がたまらなく面白かったのです(笑)
退屈が面白いとは不思議な表現かもしれませんが、読んでみるとわかる人には分かります。
この手のジャンルは万人受けする作品ではありません。
しかし、ハードボイルド小説の古典として一度読んでみても損はしないと思います。
「犯人はこの中にいる!それはアナタです、○○さん!」
のようなスカッとする事件解決や謎解きもありません。
寄り道ばかりで事件のオチも派手さはありません。
このチャンドラーの描く私立探偵マーロウは、多くの作品に影響を与えています。
誤解を恐れずいうならチャンドラー作品が元ネタなんですね。
例えば「怒ると、どうするんだ? リスとタンゴでも踊るのか?」というセリフ。
漫画「コブラ」に出てきた名セリフ「怒るとウサギとダンスでもするのか?」の元ネタであったり、
松田優作の「探偵物語」も「長いお別れ」が元ネタだってwikiに書いてある。
その他、
「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」
「ギムレットには早すぎる」
など、元ネタを知らずに引用される有名なセリフが多数登場します。
1つ1つのセリフやエピソードを噛み締めるように読んでいくと
この作品の魅力がにじみ出てきます。
スルメのような作品で初見殺しなところもあって敷居は高いかもしれません。
何か人生の壁にぶち当たったとき、右へ行こうか、左へ行こうか迷ったとき、
分厚いチャンドラー作品を本棚から取り出し、
気になるエピソードをペラペラ読みたくなるそういう作品です。
最後に村上春樹版のラストシーンを引用します。
彼は振り向いて部屋を横切り、出て行った。ドアが閉まるのを私は見ていた。 模造大理石の廊下を歩いていく彼の足音が聞こえた。 足音は時間をかけて遠ざかり、やがて沈黙の中に吸い込まれた。 それでもまだ私は耳を澄ませていた。何のために? 彼がふと歩を止めて振り向き、引き返してきて、 私が抱えているこの胸のつかえを取り払ってくれるひとことを口にすることを求めていたのか? いや、そんなことは起こらなかった。それが、私にとってのテリー・レノックスの最後の姿になった。 そのあと、事件に関係した人間には誰にも会っていない。 警官は別だ。警官にさよならを言う方法はまだ見つかっていない。 村上春樹訳『ロング・グッドバイ』(早川文庫)よりラストシーンを引用